「会」主催8.11シンポに参加して頂いた夢工房と闘った市民団体の代表者であり、企業経営者である船曳鴻紅さんからの投稿を紹介します。
夢工房第三者委員会の報告書を読んで
池田山住環境協議会 船曳鴻紅
今回、兵庫県と姫路市による第三者委員会の報告書を読ませていただきました。あくまで夢工房経営者一族の補助金不正利用の調査ではありましたが、保育の「質」にも言及し、社会福祉法人でありながら営利活動に走る体質にメスを入れる内容だと思います。私ども池田山の会が夢工房阻止に動いたのも、当初より黒石一族による夢工房の「内部留保金隠し」や「理念なき保育所経営」が顕著だったためでした。それが客観的な数字として表に出たことは、今後同様な不正流用に歯止めをかけ、保育所経営を再考する良い機会にもなったかと思います。
報告書の中で、私が夢工房問題のポイントと考えたのは以下の点でした。
① 夢工房が銀行借入れを行い、それを黒石親子に貸し付けて、あたかも黒石氏の個人資産から寄付を行ったように装った(自治体に対しての見せ金)=15頁
② 銀行借入れに関しては、横領の疑いも=17頁
③ 私的流用:家族への不正給与、学費支払い、私物購入(車、家具、衣服等)、家政婦の給与不正支払等々=22頁~
④ 理事会、監査が完全に形骸化し、夢工房の経営に関しては黒石一族の思うままとなっていた=63頁68頁
⑤ 黒石理事長とその妻(統括園長)の夢工房職員への締め付け、支配=67頁72頁
⑥ 利用者、従業員を二の次とする利益優先主義、保育内容の低下=69頁
メディア的には、「私的流用」がわかりやすいため大きく取り上げられていますが、私は①と④と⑥、特に⑥が最も大きな問題だと思っています。①については、戦後の社会事業制度が構築される過程で、助成金や納税免除を認める前提として自前資産の寄付が要求されたことはやむを得ないとしても、それから65年も抜本的な見直しがされずに今日に至ったのは、総じて厚労省の怠慢によるものだと思います。その結果が社会福祉法人の既得権益につながって新規参入を阻み、夢工房をモンスター化させたのではないでしょうか。品川区の場合は、児童福祉の担当課長が夢工房高評価の理由としたのが、法人の潤沢な財務内容だったのです。
④については、家族経営の中小企業における取締役会のレベルの話です。株式公開されている企業では、特に監査においてあり得ない話で、それが我々の税金によって運営が成り立つ社会福祉法人で起こるというのは、ほとんど詐欺同然だと私は思います。理事報酬は、吝嗇な黒石一族なので高額ではないでしょうが、逆にそれ故に理事が経営者としての役割に無自覚だったのではと推測されます。お互いに理事を引き受け合う、数合わせだけの夢工房理事会は、福祉業界にあっては氷山の一角なのかもしれません。もちろん良心的な社会福祉法人の存在を否定するものでは全くありません。良心的であれば小規模にならざるを得ないし、そうであれば理事を多様な立場の方々にお願いするのが難しいことは十分に理解しています。
⑥についてですが、黒石前理事長は全国社会福祉施設経営者協議会の「経営実践事例集(平成20年)」で「人材確保における一実践」と称して下記の図を掲げています。
ここに見られるのは、現代の人買いです。北海道に保育所を開いたのも沖縄に開いたのも、その地域の社会福祉のためというよりは、保育士のリクルート先として新天地を求めたと言うほうが間違いないのではないでしょうか。そしてこれが最も行政の琴線に触れたポイントだと思います。先に品川区が夢工房を高く評価したのはその財務内容にあると書きましたが、実は待機児童問題を抱える自治体においては、この保育士補充能力が高く評価されていたのだと私は思います。夢工房は、複数の保育所の中で人繰りする実績を謳って自治体を懐柔したわけですが、自治体とのそのような蜜月関係は決して保育の質を保証したものでなかったことは、夢工房の高い離職率に読み取れます。
池田山においては、夢工房の保育士の平均給与が低いままで、なぜ10億の土地代や4~5億の建設費(補助金あり)をかけて保育所をつくろうとするのか、社会常識的におかしいと誰もが思ったのが反対運動の発端でした。国においては3年前消費税率をあげて保育予算を確保し、当初ハード(箱物)とソフト(保育士関係費)を半々としていたのが、いつの間にかハードのほうが7~8割となりました。予算を割いても、それほど保育士の数に上積みが期待できないと厚労省が予想したからではないでしょうか。夢工房問題が起こった当時は、メディアを含め世間の認識は極めて低く、保育所の数をつくれば待機児童問題は解決するという大雑把な世論でした。それが今はようやく、保育士の低い給与問題にも光が当たるようになりました。私は、民営移管の一番の問題は保育スタッフの高い離職率と、それによる保育体制の歪みだと思います。人間の発達段階に最も影響の大きい乳幼児期に、20代の若い女性が中心の保育体制であって良いはずがありません。また夢工房に熟練の保育士が多くおられたならば、今回のような夢工房黒石一族の野放図な保育所経営は起こらなかったのではないかと思われます。ぜひ今後は、保育士の方々の待遇改善に社会全体として取り組むようになればと願います。
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